onigiritobanana’s blog

本の感想や日々感じたことを書きます

本の感想「anonyme」原田マハ

電車の中でひたすら没頭しながら読んだ。

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読んでいて映像がアニメーションのように浮かび上がってくる。劇場版アニメみたいなエンタメ小説だった。(アニメ化する際、ジェットはぜひ森川智之さんに演じてもらいたい…!オブリージュは宮野真守さん、エポックは大塚明夫さんで)

ジャクソン・ポロックは正直ざっくりとした概要しか知らなかった。話の中でしっかりとこのアーティストが生まれた時代背景や作品の紹介がされていてとても興味深かった。原田マハさんの小説は美術史に触れられるのも大きな魅力の1つ。

オークションや搬出方法などなかなか知ることができない裏側を見られ、初めて知ることがたくさんあった。オークションってなんであんなに高い値段で取引されるのだろう、と思っていたがその場の空気の中、人間の生の感情のやり取りの中で値段が吊り上がっていくのだなと納得した。その価値自体というよりもある意味、手に入れられるかギリギリでスリルのある戦いを味わうことが醍醐味なのかもしれない。

香港が舞台で、現実で起きている社会情勢やデモのことも描かれ、その中で生きる青年が何を感じ、表現しようとしているのか、リアルに感じられた。

資本主義の中でのアート、本来のアートの意義、人によって違う見え方や価値を感じるアート。アートの位置がアートそのものを表しているようで、面白い。

一番感動したのが最後のシーン。全てが収まるところに収まった、それは1ミリの狂いもなく完璧に。鮮やかで読み終わった後、放心してしまった。映画のエンドロールを見ている時のような気持ちだった。(きっと映画ならエンドロールの時に、それぞれのその後が写真で1枚ずつ出てくるのだろう。ミリなら美術館完成の写真、ネゴなら会社で上司に評価されている様子など)

アートには世界を変えられる力はないかもしれない。けれど、ひょっとすると、アートで世界を変えられるかもしれないと思うことが大切なんだ。

という言葉が印象的だった。ひょっとすると、と1ミリでも信じること、そして行動することで何かが確実に変わる。全てのことに言えると思う。何か新しいことを始めたり、やってみたいことに挑戦したり…そんな時は自分も、周りもそんなこと出来っこない、って思ってしまいがち。でもひょっとすると、もしかして、できると信じることで小さいように見えて大きく世界は変わるのではないか。